研究室と研究内容
研究室
2022年4月からスタートした比較的新しい研究室です。
流域評価ターゲット質量分析を核とした水環境のモニタリングにより、学際的な研究を行っています。
分析法開発から始まり、フィールド調査&ラボ実験が基本!
ターゲット分析用液体クロマトグラフータンデム質量分析計(LC-MS/MS)と予測スクリーニング&ノンターゲット分析用液体クロマトグラフー四重極飛行時間型質量分析計(LC-QTof/MS)、得られたビッグデータの解析を駆使して研究を推進しています。
研究目標
- ヒトの便益と環境影響のバランスの取れた化学物質利用に貢献する
- 化学物質による生物影響、特に次世代影響の評価に貢献する
- 下水道事業の環境保全への貢献を定量的に評価し今後の推進に貢献する
研究内容
ー 概要 ー
都市域での非意図的な水の再利用を意識しつつ、人為起源の汚染物質、特に水性生物に悪影響を及ぼしうる
生理活性物質の環境動態の把握、環境毒性学的な評価を行なっています。
分析対象物質を決めたターゲット分析だけでなく、有害生理活性物質の代謝産物や、下水道や水環境における分解産物の存在実態の把握も目指し、高分解能質量分析計によるノンターゲット分析も行なっています。河川流下過程での化学物質の変化を調査した際は、昼夜の調査に加え、同じ現象が再現されるかどうかの室内実験を行います。
研究項目
1)質量分析を核とした水生生物の生理活性に悪影響を及ぼす人為起源の微量有機汚染物質の
- 分析法の開発
- 環境動態の把握
- 排水処理過程における除去性の把握
- 環境毒性学的な評価
2)水環境汚染物質の観測結果に基づく流域の評価
Ⅰ. 分析法の開発
質量分析を核とした水環境のモニタリングを行なっています。液体クロマトグラフ−タンデム四重極質量分析計(LC-MS/MS、Xevo TQ-s micro, 日本ウォーターズ)を駆使した定量分析と、液体クロマトグラフ−四重極飛行時間型質量分析計(LC-QTof/MS、Xevo G2-XS, 日本ウォーターズ)を駆使した定性分析を行なっています。測定する濃度のレベルは、ng/L以下の超低濃度(東京ドームに小さじ一杯を加えたくらい)にも及びます。
定量分析(ターゲット分析)は、標準溶液の調整から始まり、MS/MSでの分析条件の検討、LCでの分離条件の検討、環境試料(水や泥、魚などの生体試料)の前処理条件の検討ののち、分析精度を確認するための試験を行い、確立されます。
定性分析(ノンターゲットもしくはサスペクトスクリーニング)は、主には定量分析後の試料を同一LC条件で分析します。分析データはビックデータ(約5 GB/sample)なので、専用のワークステーションで解析を行います。
Ⅱ. 環境動態の把握
河川や海に排出された汚染物質がどのような運命をたどるのか?たとえば川の流下過程で分解されるのかされないのか、されるとしたらその要因は何か?その様なことを解明するため、水の採取だけでなく、時には川底の泥を採取したり、石に付着した藻なども採取します。さらに、共同研究を通じて野生の魚も採取し、濃縮された有機汚染物質を環境鑑識学研究室で分析を行います。自然環境で観察された現象(分解や吸着など)を再現するため、室内実験や現場での実験などで検証します。
Ⅲ. 排水処理過程における除去性の把握
下水処理場の水環境保全への寄与を定量的に示すため、どのような化学物質がどの程度処理できるのかの調査をしています。ヒトの活動で使用される、または生活で使用される化学物質は、多くの場合は下水処理場を経由して水環境へ排出されています。下水処理場は、水環境の保全に大きな貢献をしていますが、設置時には想定されなかった難分解性の化学物質の処理はできません。また、処理できない場合、どのような処理技術であれば処理できるのかを調べるため、新技術における処理についても調査したり、その再現実験を実験室にて行なっています。国内では、市町村の協力を得て試料を譲渡いただいたり、国外の処理場での調査なども行なってきました。
Ⅳ. 環境毒性学的な評価
効率的な化学物質の監視と管理、持続可能な環境保全に資する研究を多様な共同研究・ネットワークを活用し推進しています。化学物質による生体影響と毒性は、多量・単一種類・短期曝露による致死から、少量・多種・長期曝露による非致死の影響評価の必要性が高まっています。そのため、現状を把握するための分析技術と毒性評価の高度化は必然です。そこで、分析技術の高度化に注力し、毒性評価などを重点的な共同研究で行い、汚染を相補的に評価しています。ある汚染物質そのものだけでなく、分解産物も含め包括的に評価しています。
2)水環境汚染物質の観測結果に基づく流域の評価
流末に集まる情報を精密質量分析結果として集積し、そこから流域を評価する研究を行なっています。我々の生活には、水道水や飲食物だけでなく、化粧品や医薬品、調理器具や建築資材としても化学物質が入り込んできます。これらを我々は取り込み、そのまま、もしくは代謝物や分解産物として排泄し、下水処理場や水環境へと放出しています。また、風呂排水としての流出や、大雨の時などには未処理の下水も流出しています。そこで、下水や川の下流(流末)での採水、化学物質の分析から、家庭内や流域内で使用・曝露される化学物質の質・量的な推定(環境鑑識)を進めています。さらに、特定の疾病に使われる薬や、特定の疾病に罹患した際に体から排泄される化学物質を流末で観測することによる流域の疾病流行把握についても研究を行なっています。
- 分解産物も含め網羅的に評価
- デジタルデータとして保管し、遡及的に評価
←プログラミング、in silico解析や機械学習なども駆使